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第十九章 むだな捜索。ギデオンの叛乱。レーマン人の侵入。ノア王焼き殺される。ノア王の子リムハイ、貢をレーマン王に納めて君となる。 ノア王の兵は、主の聖徒たちを捜索したけれども、むだであったのでついに帰ってきたが、
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ごらん、王の軍勢はすでに減って小さくなっていた。その時軍人でない民が分裂を起した。
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そして数の少い方が王をおびやかして民の間に非常な不和が起った。
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ここに民の中にギデオンと言う人があったが、強い男であって王の仇であったから剣を抜き怒りにまかせて王を殺すと誓った。
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そこでギデオンは王と戦ったが、王は今やまさに負けようとするのを知り逃げ走って神殿の近くにある塔に昇った。
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しかし、ギデオンはそのあとを追い、王を殺そうとしてまさにその塔に昇ろうとした。この時王がシェムロンの地をながめ見わたすと、見よ、レーマン人の軍がはや国境へ侵入してきている。
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そこで王は心に憂い苦しみ叫んで言った「ギデオンよ。見よ、レーマン人がおそい来ってわれらもわが民も亡ぼさんとする。さればわが命を助けよ」と。
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こうは言ったが、王は民のためよりも自分の命のことを心配していたのである。それにもかかわらず、ギデオンは王の命を取らないで助けた。
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そこで王は民にレーマン人から逃げよと命じ、自分自身先に立って逃げたが、民もまた女子供をつれて荒野へと逃げ落ちた。
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ところがレーマン人はそのあとを追い、追いついてかれらを殺し始めた。
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ここに於て王は、男はみなその妻子を捨ててレーマン人から逃げよと命じた。
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しかし妻子を捨てて逃げるよりは、むしろとどまっていっしょに死にたいと思う者が多かったが、そのほかの者たちはみな妻子を捨てて逃げ去った。
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妻子といっしょにのこった男たちは、きりょうの良い娘たちを先に立ててレーマン人が自分たちを殺さないように歎願させた。
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レーマン人はこの者たちの女子が美しいことに心を奪われて憐みの心を起し、
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かれらの命を助け、とりこにしてニーファイの地へつれて行った。ここに於てかれらはノア王をレーマン人の手に引き渡し、自分たちの金銀およびもろもろの貴重品など、すべてその持物の半分を納めると言う約束でニーファイの地に住むことを許された。よってこのように、かれらは年々レーマン人の王に貢を納めなくてはならなかった。
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この時とりこになった者の中にノア王の息子が一人いて、その名をリムハイと言った。
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リムハイはその父王が殺されたくないと思ったが、かれ自身は正しい人であったから父の犯した罪悪を知らないのではなかった。
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一方ギデオンはノア王と王に従う人々を探し求めるためひそかに人を荒野へつかわしたが、王と祭司らを除きそのほかすべての者たちに逢った。
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この者たちはニーファイの地へ帰って、もしもその妻子やそれらといっしょにのこった男たちが殺されていたなら、まずそのかたきを打っていっしょに死のうと心に誓った由であった。
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しかしながら、ノア王が帰ってはならないと言ったので、かれらは怒って王を焼き殺してしまった。
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そして、祭司らも捕えて殺そうとしたので祭司らはかれらから逃げ去った。
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かれらがまさにニーファイの地へ帰ろうとするとき、ギデオンがつかわした者たちがこれと逢い、かれらの妻子がどうなったか事のしさいを物語り、またのこった民がその持物の半分を貢として納める約束でニーファイの地に住むことをレーマン人に許されたことを話したので、
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かれらもまたギデオンのつかわした者たちに、ノア王を殺したことやその祭司らがはるか荒野の奥へ逃げて行ったことを知らせた。
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かれらは挨拶を終ってから、その妻や子供たちが殺されなかったことを喜びながらニーファイの地へ帰り、ギデオンにはノア王を殺したことを告げた。
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ここに於て、レーマン人の王はその民がノア王の民を殺さないと言う誓いをした。
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リムハイはノア王の子であって、この時すでに人民に王と仰がれていたから、自分の民がその持物の半分を貢としてレーマン人の王に納めると言う誓いをした。
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そしてリムハイはその国と民の平和とを固め始めた。
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レーマン人の王はリムハイの民を国内に止まらせ、荒野へ逃げて行かないよう、その地のまわりに番兵を置き、ニーファイ人から取った貢で番兵を養った。
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リムハイ王は二年間その国の平和を保ち、レーマン人もリムハイ王の民を苦しめまた亡ぼそうとはしなかった。
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