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さてピロパテル(プトレミオ四世)は、自分の支配していた地域がアンテオコスによって奪い返されてしまったことを、帰ってきた人々から知り、すぐに歩兵と騎兵の全員に命令して、妹のアルシノエを伴って、アンテオコスとその軍隊が陣を張っていたラピア地方まで進軍した。
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しかしテオドトスという男は、次のような計画を実行するつもりであった。それは前にプトレミオから託されていた兵士たちのうちから最も強い人々を連れて、夜中にプトレミオの陣営を通過し、自分の責任によってピロパテルを殺害して戦争を終結させようというものであった。
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しかしドリミロスの子ドシテウス、ユダヤ人として生まれたのに律法と定めを捨てた人物であるが、彼はプトレミオを移動させて、かわりに得体の知れない人物を彼の幕屋に寝かせておいた。その結果プトレミオに降りかかるはずだった運命はかわりにこの男に降りかかった。
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そして激しい戦いが起こった。戦いはアンテオコスに有利に進み、アルシノエは軍隊の間を行き来して、髪を振り乱し涙を流して兵士たちに嘆願した。「どうか自分たち、子どもたち、妻たちのために男らしく戦ってください。戦いに勝ったならば金二ミナを与えましょう」
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激しい戦いの結果、敵は打ち破られ、多くの捕虜がつかまえられた。
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こうして、敵の試みに打ち勝つと、王は隣接した都市を訪問し、彼らを安心させようとした。
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それだけではなく、それぞれの都市の神殿に寄付をすることによって、支配されているユダヤ人たちの心を励ました。
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ユダヤ人たちは彼らの議会と長老たちの中から数名をプトレミオに派遣し、挨拶をさせ、贈り物を贈り、お祝いの言葉を言わせたので、プトレミオはそれらの都市を訪問したいと熱望するようになった。
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プトレミオはエルサレムに到着し、最も偉大な神にいけにえの獣をささげ、感謝の贈り物をささげるなど、聖所にふさわしい行為を何でもした。そして中庭に入ると、
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彼はその場所の壮麗さにとても感動し、聖所の整然とした配置にとても驚いたので、神殿自体の中に入ってみたいと思った。
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そして人々が「そんなことは許されていません。ユダヤ人でもだれも、いや一般の祭司でさえ入ることができず、大祭司だけがしかも一年に一度入ることが許されているだけなのです」と彼に告げても、彼は決して引き下がろうとしなかった。
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すると人々は彼に律法を読み聞かせたが、彼はどうしてもでしゃばって、自分は許されるべきだと不平を言った。「たとえ彼らが入ることが許されなくても、わたしは許されるべきだ」
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そして彼はたずねた。「どうしてわたしが各地の神殿に入ったときに、だれもわたしを止めなかったのか」
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するとある人が答えた。「そういう間違いを自慢してはいけません」
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しかしプトレミオは「どういう原因でそうなったとしても、わたしはもう入ってしまったのだから、あなたがたの同意があろうとなかろうと、入ってもかまわないではないか」と言った。
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祭司たちは式服を着てひれ伏し、大いなる神に、いままさに起ころうとしていること、乱暴者の横暴を避けられるように助けてくださいと懇願し、神殿を叫び声と悲嘆の声でいっぱいにした。
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町に残された人々は、いったい何事が起こったのかと、飛び出してきて大騒ぎになった。
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家の中に閉じこもっているはずの乙女たちも、母親と一緒に駆け出して来て、ちりと灰を頭にかぶり、通りを嘆きの声でいっぱいにした。
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近々結婚する予定のある女たちは、新婚の寝室や持参金を捨てて、町の中をばらばらな方向に走って行った。
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赤ん坊は世話をすべき母親や乳母たちから放り出された。ここに、あそこに、家に、野に。そしておさえきれない感情によって、高貴な神殿へと人々が集まってきた。
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さまざまな人が王の邪悪な考えに反対してここに集まり、祈りをささげた。
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またそれとは別に、勇気をふるって、彼の頑固さとあくまで目的をとげようとするのに反対しようとする何人かの市民がいた。
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そういう人たちは武力に訴えて、父祖の律法を守って勇敢に死のうと、その場所で大きな騒ぎを引き起こそうとしたが、老人や長老たちからなだめられて、他の者と一緒に祈りの席についた。
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こうしているうちにも人々は祈り続けた。
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王のまわりにいた長老たちは、彼が思いついた考えからその高慢な気持ちを変えるように、さまざまな努力をした。
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彼はいよいよ決意を固め、あらゆる説得を無視して、この考えを実行するために前に進んだ。
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しかし彼の側の役人でさえ、これを見てユダヤ人の側に加担して、全能のお方に、現在のこの危機を救ってください、高慢による無法を見過ごしになりませぬようにと呼び求めた。
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集まった群衆の叫び声は絶え間なく激しくなり、巨大な叫び声となった。
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人だけではなくまさしく城壁と大地が力をあわせて声をあげているようであり、すべての者が、聖所が汚されるのを見るよりはむしろ死を望むようであった。
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