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【17世紀英語コース】

文法のまとめ


  1. 17世紀英語の文法
     ここでは、KJVに用いられている17世紀英語の特徴を説明します。
     「口上」にも書いたように、17世紀英語は英語史の時代区分ではModE(Modern English)つまり「現代英語」です。しかし現代英語というと、私たちの時代つまり20-21世紀の英語のように聞こえてしまいます。そこで混乱をさけるため、以下は、私たちの時代の英語のことを「現の英語」と呼びましょう。
     さて、17世紀英語も一応現代英語であるからには、文法はほとんど現在の英語と同じですが、400年近く前の言葉ですから多少の違いがあります。他の言語のコースの文法説明と異なり、ここではその違いのみを説明することにします。
     なお、以下のことはふつうの英和辞典、英英辞典などにも一応載っていますが、まとめて説明している辞書や本はほとんどないので、お役にたつことと思います。


  2. 2人称代名詞
     
     主格(~は)所有格(~の)目的格(~を)所有代名詞(~のもの)再帰代名詞(~自身)
    単数thouthy(母音の前ではthine)theethinethyself
    複数ye(後にyou)youryouまたはyeyoursyourselves

     現在の英語の2人称代名詞youは、実は歴史的には複数形だったのです。
     インド・ヨーロッパ語族の多くの言語に共通して見られる現象として、「2人称単数を避ける」というのがあります。2人称単数にはキツいさげすみの語感があるんで、子どもやよほど親しい相手でなければ使えません。意外なことに神様にはOKなんですね。「神様の前にはあらゆる敬語は無意味になるので一番キツいやつでいい」んだそうです。
     では2人称単数を避けてどうするかというと、言語によりまちまちですが、2人称複数形で代用するフランス語式(vous)か、3人称複数形で代用するドイツ語式(Sie)かがほとんどです。ポルトガル語では2人称自体が死語化して、入門者向け文法書には1人称と3人称しか書いてなかったりします。まんどぅーかさんによれば、インドの言語では3人称複数形を用いるのが多いんだそうです。
     上で、所有格thyが母音の前では所有代名詞thineの形になっちゃうっていうのが面白い現象です。ちなみに1人称のmyも、昔は母音の前ではmineだったんですって。


  3. 2人称の動詞活用語尾
     主語が2人称単数つまりthouのときは、動詞に-stまたは-estをつけます。3人称単数で-sをつけるのは現在形だけですし、助動詞には-sをつけませんが、-(e)stは現在形だけじゃなく過去形にもつけますし、助動詞にもつけることに注意してください。これの不規則な形は次のとおりです(太字部分に注意)。
    動詞現在形過去形
    beartwast(またはwert)
    havehasthadst
    dodost(またはdoest)didst
    cancanstcouldst
    maymaystmightst
    willwiltwouldst
    shallshaltshouldst

     なお、estと書いてあるときは、必ず「エスト」、つまりeをしっかり発音します。


  4. 3人称単数現在形
     今の英語では3人称単数現在形では動詞のあとにsをつけますが、昔は-thまたは-ethをつけます。どういうときに-thでどういうときに-ethかは、必ずしも規則化されておらず、混乱ぎみです。また-sも併用されており、シェークスピアではthとsとが両方出てくるみたいですが、KJVは原則thです。なお、ethと書いてあるときは必ず「エス」つまりeをしっかり発音します。


  5. 過去形
     規則動詞は-edをつけて過去形を作りますが、その発音は「エド」です。イドではありませんし、どんな場合でも必ずエドと発音します。また、不規則動詞の場合2人称単数では-estをつけます。基本的に過去形の形は同じなのですが、speak→spakeなど、今と違うものも時々出てきます。


  6. 過去分詞
     過去形同様、規則動詞は-edをつけて作りますが、やはりその発音は「エド」です。like→likenみたいに、今と違うものも時々出てきます。


  7. willとshallの使い分け
     その昔、真理子より一つ上の世代までは、中学校で学ぶ英語の授業では、willとshallの使い分けを教わったものでした。それは次のとおりです。
     1人称2人称3人称
    単純未来shallwillwill
    意志未来(話者の意志)shallshallshall
    主語の意志willwillwill
    相手の意志を質問する疑問文shallwillshaill

     単純未来は誰の意志にも無関係に将来起こりうることに用います。日本語としては何も訳さないか、せいぜい「~することになる」とするのが一番適当です。意志未来は主語または話者の意志や推測で起こりうることに用います。普通は「~だろう・つもりだ」と訳しますが、話者と主語が異なる場合は「~すべきだ」と訳すのがよい場合もあります。
     このような区別は20世紀後半になって米英ともにあいまいになってきたうえ、そもそもこのような区別は、will=意志、shall=義務を負う、という原義から考えたほうが納得いくことなので、形式的な人称による区別としては教えられなくなってしまいました。が、真相はともあれ、伝統的にこのような人称による区別として教えられてきた歴史は無視できません。ですから古風な文章(さしあたりはKJV)でshallが出てきたら、このような人称による区別にのっとって書かれている可能性を考えたほうがいいです。
     上の表を現実の表現に即して書き換えると、
    1. I/We shall ~……私(たち)は~する(ことになる)。単純未来なら意志に無関係にそうなるということ、話者の意志を表す未来なら、もうそれが運命づけられているほど強烈な意志で~する、という意味になります。マッカーサーのI shall return.なんかそういうことでしょう。
    2. I/We will ~……私(たち)は~するつもりだ、したい。(例)Sit ye here, while I shall pray. 私が祈っている間ここに座っていろ (Mar:14:32)
    3. Shall I/We~……あなたのために私(たち)は~しましょうか? 私たちは~しようか? 相手の意志を質問しているので、相手がweの中に属していなければ前者、相手もweの中に入っているなら後者でしょう。
       (例)What shall I do then with Jesus which is called Christ? それではキリストと呼ばれるイエスを私(ピラト)は(君達のために)どうしてあげればいいのか?(Mat:27:22)
    4. Thou wilt / Ye(You) will ~……あなた(たち)は~する(ことになる)、あなたは~するつもりだ。単純未来、あるいは普通の意志未来です。
    5. Thou shalt / Ye(You) shall ~……あなた(たち)は~すべきだ/~だろう(と話者(=私)は思う)。話者の意志なので、通常は話者=私、少なくとも話者はThou/Ye/Youとは別人のはずなので、このような意味になります。
       (例)Thou shalt call his name JESUS. あなたは彼をイエスと名づけるべきだ(Mat:1:12)
       Ye shall not surely die. あなたがたは(木の果実を食べても)決して死ぬことはない(Gen:3:4)
    6. Wilt thou/Will ye(you) ~ ……あなた(たち)は~するつもりですか?
    7. He/She/They will ~彼(ら)は~することになる、彼(ら)は~するつもりだ。単純未来、あるいは普通の意志未来です。
    8. He/She/They shall ~……彼(ら)は~すべきだ(と話者(=私)は思う)。話者の意志なので、通常は話者=私、少なくとも話者はHe/She/Theyとは別人のはずなので、このような意味になります。
    9. Shall he/she/they ~……彼(ら)は~すべきです(とあなたは思います)か。he/she/theyとは別人である相手の意志をたずねるので、このような意味になります。
    willがwouldになったり、shallがshouldになっている場合はこれらの敬語表現だと思うといいでしょう。


  8. 命令法
     動詞の原形がそのまま命令法の形となります。命令文では主語をつけませんが、ye(「あなたがた」または敬称としての「あなた」)に対する命令のときは、動詞のあとにyeをつけるのが普通です。ちょうどドイツ語でSie(敬称としての「あなた」)に対する命令文が、原形+Sieとなるのと同じです。
     (例) Repent ye. 悔い改めよ(Mat:3:2)
     また、命令文の否定すなわち禁止は、現在のようにdon'tを用いるのではなく、動詞のあとにnotをつけます。
     (例)fear not to take unto thee Mary thy wife. 心配しないでマリアを妻として迎えなさい (Mat:1:20)


  9. 完了形
     現在の英語同様にhave+過去分詞ですが、一部の自動詞、具体的にはcome、go、becomeなどのときは、be+過去分詞となります。これもドイツ語と同じです。be+過去分詞というと受身のようですが、これらの動詞は意味的に受身になりえないので区別できます。
     (例) The kingdom of God is come unto you. 神の国はあなたがたの前に来ている (Mat:12:28)


  10. 倒置
     現在の英語でも文語的表現として、一部の副詞(否定の意味を持つものが多い)が文頭に来ると、動詞+主語という順になります。実はこれは倒置というよりは、ドイツ語の「動詞2番目の法則」の英語版といえます。
     (例) Such is the way of an adulterous woman. 姦通の女の道も同様である。(Pro:30:20)
     また、主語にいろいろな修飾語句がついて長くなったときは、補語や目的語のほうを先にいう場合があります。
     (例) Ye shall not eat of it, neither shall ye touch it, lest ye die. あなたがたはそれを食べてはならないし、触れてもいけない。死ぬといけないから。(Gen:3:3)
     Blessed are the poor in spirit. 精神において貧しい人は祝福される (Mat:5:3)


  11. 一般動詞の疑問文・否定文の作り方
     原則としてどんな動詞のときも、疑問文では主語と動詞を倒置させて動詞+主語とします。また否定文では動詞の後にnotをつけます。現代英語ではこのようにするのはbe動詞のときだけ(英国ではhave動詞もそうするのが標準です)で、一般動詞ではdoを助動詞として、疑問文はdo+主語+動詞、否定文はdo not 動詞とします。KJVでもそういう用例は出てきますが、それは一種の強調形であり、一般にはどんな動詞でも上記のようにするのが原則です。
     (例) What sawest thou? あなたは何を思ったのか (Gen:20:10)
     Said he not unto me? 彼は私に言わなかったか (Gen:20:5)