[真理子日曜学校 - 聖書の言語入門(フレーム表示) ]
【17世紀英語コース】

主の祈り


  1. 原文
     
    9: Our Father which art in heaven, Hallowed be thy name.
     10:Thy kingdom come, Thy will be done in earth, as it is in heaven.
     11:Give us this day our daily bread.
     12:And forgive us our debts, as we forgive our debtors.
     13a:And lead us not into temptation, but deliver us from evil:
     13b:For thine is the kingdom, and the power, and the glory, for ever. Amen.


  2. 発音
     
    9: アワ ファーざー ゥィッ アー イン ヘヴン, ハろウエ ビー ざイ ネイ.
     10:ざイ キン, ざイ ウィ ビー ダン イン アー, ア イティ イン ヘヴン.
     11:ギヴァ ずィ デイ アワ デイりー レッ.
     12:アン フォーギヴァ アワ デッ, ア ウィ フォーギヴァワ デターズ.
     13a:アン りーダ ノッティトゥ テンプテイション, バッ デりヴァラス ロム エヴィ:
     13b:フォー ざイン イ ざ キン, アン ざ パワー, アンろーリー, フォレヴァ. アーメン.

     9のhallowedは今ならハろウですし、そう読む人も多いでしょうが、当時は過去語尾のedはいかなる場合もエと発音しました。歌でこのedのところにちゃんと音符をわりふっている場合は、エとはっきり発音してください。
     12のdebtsやdebtorsはbを読まないように注意してください。13bは今なら普通foreverですが、forとeverを離してるのは英国流儀です。


  3. 文法説明
     
    1. 9: Our Father which art in heaven, Hallowed be thy name.
       artというのは芸術じゃなく、be動詞の2人称単数形です。主語は関係代名詞whichの前のOur Fatherで、この場合は神様のことです。こういうふうに神様をあらわす語は大文字で始めたり、LORDのように全部大文字で書いたりします。で、普通ならfatherは3人称なんですが、この場合は呼びかけ語であり、内容的にthouなので、動詞は2人称単数扱いになっているというわけです。
       2人称単数については「文法のまとめ」を見てください。いま私たちが2人称単数だと思っているyouは実は2人称複数であり、それとは別に本来の2人称単数というのがあるのです。長くなるので説明はすべて「文法のまとめ」まわしにします。
       次のHallowedから始まる文、主語はthy nameです。主語が複数の単語からなるときは、口調の関係で主語と述語が倒置されることがあります。
       で、動詞はbeなんですが、この形は仮定法現在。他の多くのインド・ヨーロッパ語系言語では「接続法」といったりします。「~しますように」という意味の祈願文ではこのように仮定法現在を使います。形は原形と同じです。そんなわけで訳しますと「天にいる私たちの父よ、汝の名前が神聖なものとなりますように」
    2. 10:Thy kingdom come, Thy will be done in earth, as it is in heaven.
       前半は9後半同様に祈願文の仮定法現在です。comesとなってないでしょ?。
       後半の主語はthy will。will beなんていうと未来の助動詞+be動詞の原形か、なんて思っちゃいますけど、それだとthyのあとに名詞がないという矛盾が起こります。thyはmyやyour同様、必ず形容詞的に使います。mineやyoursにあたる所有代名詞としての形はthineです。ですからそのあとのwillは未来の助動詞ではなく「意思」という意味の名詞です。そうなると主語は3人称単数なので、次のbeはやはり仮定法現在、つまりこれも祈願文ということになります。訳しますと、「汝の王国が来ますように。汝の意思が、天におけるように地にもなされますように」
    3. 11:Give us this day our daily bread.
       こんどの文には主語がありませんので、現在の英語でもよく見かける命令法というわけです。日本語では丁寧な命令文と祈願文との訳の区別があいまいになりがちなので、祈願文は「~ますように」、命令文は「~してください」と訳し分けましょう。「私たちに日々のパンを今日与えてください」
    4. 12:And forgive us our debts, as we forgive our debtors.
       これも命令文。「そして、私たちが私たちの負債者を許すように、私たちの負債を許してください」
    5. 13a:And lead us not into temptation, but deliver us from evil:
       命令文の否定つまり禁止は、現在ならdon't leadなどとなるところですが、17世紀英語ではlead notのようになります。しかも目的語が代名詞のときは、そのあとにnotが来ます。そういえばワスレナグサもforget-me-notという語順でしたね。「そして私たちを誘惑に導かないでください。そうではなくて私たちを悪から救ってください」。not ~but…ですから「~ではなくて…」とまとめていいんですが、禁止であることを明らかにするためわざと切って訳しました。
    6. 13b:For thine is the kingdom, and the power, and the glory, for ever. Amen.
       後代の加筆部分なので現在ではどの国の聖書でも抹消されたりカッコ付きになっていたりする部分。主語はthineじゃなくthe kingdom~the gloryです。やっぱり主語が長いので口調上の倒置が起こっています。こういう口調上の倒置は実は現在の英語でも時折見かけるので知っておくといいと思います。「永遠に、王国と権力と栄光は汝のものだからです。アーメン」