[真理子日曜学校]
 

改名


 
  1. 改名
     「性同一性障害の診断を受ける」「性別適合手術をする」の2つを満たせば(順は不同。何度も言うように私は先に手術した)、反対性の名前への改名が非常に容易になります。また、さらにいくつかの条件を満たせば、性別の変更が可能になります。両方を記載すると長くなるので、このページでは、私が実際に経験した改名までの道をご紹介します。改性の話は改めて「改性」で記します。下に書くように、私は改名・改性の両方の申し立てを同時に行ったのですが、先に改名が許可された(ですから改性するまでは「植田真理子・男性」という奇妙な状態になった)ので、改名の話を先に書きます。
     なお、家庭裁判所の審判のやり方はさまざまです。当事者個々のわずかな状況の違いで大きく異なって来るようです。以下はあくまで私が経験したことであり、これを読んでいるあなたの時には異なるやり方になるかもしれません。

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  3. 分籍
     ここはあなたが独身の場合の注意事項です。あなたはおそらく親の戸籍の中に入っていることでしょう。親と別居しようと死別しようとこの状態は継続します。死別した場合も、死んだ親を戸籍筆頭者とする戸籍の中に入っている状態になります。この状態で改名をすると、戸籍変更というぐちゃぐちゃした経緯が親の戸籍に記載されることになります。それでもかまわないならいいのですが、心情的に親不孝な気がすると思いますので、あらかじめ分籍をしておくといいです。つまりあなたを戸籍筆頭者とする新しい戸籍を作っておくのです。これは本籍地の戸籍係に申請すれば無料でやってもらえます。事前準備としてあなたが戸籍筆頭者になっておきましょう。
     なお、改性をすると強制的に分籍されてしまいます。

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  5. 手続きの概要
     裁判所のサイト(横浜家裁など特定の裁判所のサイトではなく全国のあらゆる裁判所共通のサイトらしい)に各種手続きの仕方と提出書類があります。具体的には、名の変更許可の申立書(15歳以上)性別の取扱いの変更の申立書を見てください。それぞれ、申し立ての仕方と書式のPDFが掲載されています。これを見て必要書類をそろえたり、これからどういう手続きをするのか、頭の中にイメージを作っておくといいでしょう。
     申立書は上のページからダウンロードしてもいいのですが、家庭裁判所に出向いた方が確実です。ここで書記官から申立書の書式と記入例、必要な提出書類の説明を受けます。特に郵便切手は、何円切手を何枚用意するか、どうも裁判所によって違うらしいので、ナマで説明を受けたほうがいいのです。
     必要なものは、「収入印紙800円を貼った申立書」「郵便切手(横浜家裁の場合は80円切手5枚でした)」「戸籍謄本(全部事項証明書)」「名の変更の理由を証する資料」です。申し立ては郵送でOKです。
     性同一性障害の場合、医師の診断書は、裁判所提出用の詳細なものになります。これは精神科医や性別適合手術をやってる医者なら書式がわかりますので、それを作成して提出します。2人の医者の連名になるので、これだけで費用が2万円近くになります。なお、性別変更を同時に申し立てる場合、そちらでも診断書提出が必要になりますが、使い回してくれるので、同じものを2通用意する必要はありません。

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  7. 手続きの実際
     横浜市中区寿町にある横浜家庭裁判所に出向いて、手続きの相談をしました。書記官から申立書とその書き方、必要書類を説明され、後日それを全部郵送。数週間すると郵送で質問書(下の「回答書」)が来たのでそれに回答して郵送すると、審判の結果が郵送されてきました。これでおしまいです。つまり実質的には一度も家庭裁判所に出向いていません。
     このときにやりとりした書類を展示しておきます。クリックすると拡大されます。
     回答書(質問書)の「『真理子』さんという名を選んだ理由を記載してください」というのは大きなお世話というか、今まで考えたこともありませんでしたが、要は、奇抜な理由でなければいいのでしょう。ヘンに「マグダラのマリアにちなみました」などと書くとかえってやっかいだったかもしれません。「女性らしい名前」というふうにしておきましたが、それ以外に「読みやすい名前」などというのもいいかもしれません。

    回答書

    審判結果

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  9. 永年使用の証拠
     一般に改名の申し立ての場合、その名前を永年使用しているからというのを理由にする場合が多く、この場合には永年使用の実績を証明する証拠を提出しなければなりません。たとえばその名前での領収書とか、消印の押された手紙とか。
     ところがいざとなると、意外にこれが集められないものです。昔のものは掃除のときにあらかたゴミとして処分しちゃってますし、雑誌の定期購読や通販の場合、料金別納郵便だったり、民間の運送業者を利用したりすることが多く、それだと消印が入手できません。
     性同一性障害は、それ自体が改名の正当な理由になるので、永年使用の証拠の提出を求められない場合もあります。私も上記の質問書で、いつ頃から使用しているかを質問されただけで、証拠の提出は求められませんでした。でもネットを見ると、それを求められたケースも多いようですので、念のためそういうものをできるだけとっておく努力をするほうがいいでしょう。

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  11. 住民票
     改名の手続きは自分で本籍地あるいは居住地の役所の戸籍係に行って行います。これをしないと改名が有効になりません。私の場合は先に改名が許可され、次の改性に進むために改名手続きをして新しい戸籍謄本を取ってそれを家庭裁判所に送らねばならなかったので、審判の結果が郵送された日にすぐに行きました。私の場合、本籍地=居住地なのでラクでしたが、これが異なる場合は面倒かもしれません。まずは居住地の戸籍係に行って手続きをすれば、本籍地が異なる場合にどうしなければならないかがわかることでしょう。
     本籍地=居住地であっても、戸籍の作成には一週間かかりました。住民票はすぐに新しくなるので手続きをしたらすぐに取りましょう。ただしこのとき何も言わないと、新しい名前だけの住民票が作られてしまいます。これはこれで必要でしょうが、各種の改名手続きをするためには改名の事実のわかる住民票が必要です。改製原住民票というらしいですが、この用語がわからなければ窓口で必ず「改名の事実がわかるような住民票をください」と言うことです。そうすると旧名に横線が付されて新名が併記され、何年何月何日に改名したという事実が記載された住民票ができます。
     この住民票は次の運転免許証の手続きのために必要なので1部でいいのですが、不安なら数部とっておくことです。改性ができてないと、「植田真理子・男性」という奇妙な状態になりますので、次に改性を予定しているならたくさん取るのは無意味です。改性してからたくさん取りましょう。

    「名の変更」申請書類

    普通の住民票

    改製原住民票

     戸籍は次のように、旧名が記載され、これが消えることはありません。
     印鑑登録は特に何もしなくても新しい名前になります。多くの人の印鑑は姓だけだと思うのでいいのですが、印鑑の印影自体に下の名前が記されている場合は、その登録が無効になるので、新たに登録し直す必要があります。私の場合は単に「植田」なので問題ありません。

    新しい戸籍

    印鑑登録証

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  13. 運転免許証
     運転免許証(以下「免許証」)がある場合は、住民票をとったら真っ先に改名手続きをするといいです。写真つきの公的身分証明書として、免許証は絶大な力を発揮します。世の中のさまざまな改名手続きは、免許証さえ提示すれば済んでしまいます。逆にいえば免許証がないととても不便です。免許証のない人は、取得できない事情があるのでなければ、学科試験だけで即日取得できる原付でいいので、改名する前に免許証を取得しておかれるといいでしょう。
     免許証の改名手続きのやり方は各都道府県の運転免許試験場のサイトを見てください。免許証と住民票(改名したことがわかるもの)を持って行けばすぐに終わります。神奈川県の場合は警察署ですることはできず、必ず二俣川の運転免許試験場に出向く必要があります。試験場が開いている時刻であればいつでもかまいません。
     改名手続きをした場合は、ウラに改名した事実が記載され、公安委員会のハンコが押されておしまいです。つまり改名しただけではオモテの名前は変わらないのです。次の免許証の更新のときにオモテの名前が変わります。「それだけじゃイヤだ。すぐにオモテの名前を変えたい」と思うかもしれませんが、まあちょっと落ち着いてください。オモテに旧名、ウラに新名が記載されたあなたの免許証は、各種改名手続きに絶大な威力を発揮するのです。いきなりオモテの名前が変わり、旧名がどこにも記されなくなっては、この免許証だけでは改名の事実を証明できなくなり、戸籍謄本や改名の事実が記載された住民票などを一緒に提出しない限り、各種の改名手続きができなくなってしまいます。それじゃかえって不便じゃありませんか。ぐっとこらえましょう。あらかた改名の手続きを終えてから、オモテの名前を変える努力をすることです。
     次の免許証更新まで待てない、いますぐにオモテの名前を変えたいというのであれば、免許証の再交付が必要です。他のサイトでは、わざと免許証を紛失して再交付を受けるやり方を紹介していたりしますが、これは不正ですのでおすすめしません。タレントの水道橋博士が、免許証の写真を奇抜なものに変えるためにこの手を使い、しかもそれを堂々とTVで言ってしまったので事件になったこともあります。
     お金と手間はかかりますが、これを機会に新たな車種の免許を取得してはいかがでしょうか。
     原付しか持ってない人は、これを機会に普通一種免許を取得しましょう。
     普通一種の免許を持っている場合、原付や小特はその免許ですでに運転できるので取得できませんし、平成19年以前に普通免許を取得した方は、「普通、中型(8トン未満)」と読み替えられていますので、中型免許も取得できません。中型に相当する試験を受けてもそれは「限定解除」とみなされ、裏側にハンコが押されておしまい。今回の「オモテを変更する」目的には合いません。
     大型や二種の試験は所内+路上の二段構えになって大変ですし、二種の場合は学科試験ばかりか取得時講習が必須です。教習所で取る場合は取得時講習がセットになっていますが試験場で取る場合は取得時講習のためにわざわざ教習所に行かねばなりません(なお、現在は大型一種、中型一種、普通一種、大型二輪、普通二輪も「取得時講習」「応急救護処置講習」が必要ですが、普通一種免許を持っている人は免除なので問題ありません。試験場で普通一種や二輪を初めて取る人がかかわってきます)。
     所内のみの試験ですむ二輪、大特、けん引あたりがいいでしょう。
     二輪には普通二輪と大型二輪があり、いまはどちらも教習所で取得でき、スクーターしか運転できない「オートマ限定」もありますので、以前よりはかなり取得がラクです。普通二輪がなくてもいきなり大型二輪を取ることができます。
     すでに普通二輪を持っている人は、大型二輪は別の免許扱いになるので、取ればオモテが書き換わります。そこで普通二輪を持っているなら大型二輪を取るのが一番ラクではないでしょうか。
     私は大型二種、大型二輪、大特を持っていたので新たにとれる免許はもはやけん引一種、けん引二種、大特二種しかなく、けん引一種を取ってみました。けん引はバックがとても大変で手こずりましたが、何とか取れました。

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  15. 銀行口座
     お金がからむ取引先に改名手続きをする際、銀行口座の名義が異なるとダメというところも多いので、まず銀行口座の名義を新しくしましょう。この場合は新名義でも旧名義でも引き落としに支障がないはず(念のため確認すること)なので、クレジットカードや公共料金やその他銀行口座からの引き落としをしている取引先への改名手続きはのんびりちんたらやっても大丈夫です。大して重要でないネットの通販なんかだと、改名がめんどくさければ、新しい名前で登録し直すという手もありますし、ほったらかしておくという手もあります。

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  17. クレジットカード
     クレジットカードは、これで航空券を購入したときに航空券の名義にまでかかわってきますから、早めにしたほうがいいでしょう。
     ただし、このときにクレジットカード番号が新しくなってしまうことがありますので、定期的な支払いにクレジットカードを使っている場合、取引先への届け出が必要になります。いくつ取引先があるかわからなくなっちゃったら、明細書を見て確認しましょう。もっとも、改名でなくてもクレジットカード紛失・再交付の場合でも番号は変わります。取引先を覚えていなければ、引き落とせなくて文句を言ってきた取引先に順次届け出るというふうにしてもいいかもしれません。

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  19. 性別のからむ身分証明書
     健康保険、年金手帳、パスポートなどは、性別がしっかりと記載されています。改名・改性の両方をやる場合、いちいち変更していると二度手間になるので、これらは改性してから変更しましょう。

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