[真理子日曜学校 - 聖書の言語入門(フレーム表示) ]
【16世紀ドイツ語コース】

形容詞


  1. 形容詞の変化は難しい?
     よく、「ドイツ語の形容詞の変化は難しい」といわれます。形容詞は名詞の性&数と格に応じて変化するのでこれだけで16通り(例によって複数では性が関係なくなっちゃいますんで3性+複数で4の、4格ですから4×4ですね)に変化するばかりか、環境によって強変化、弱変化、混合変化をするので16×3で48通り!というわけです。ドイツ語の先生が得意げに脅しをかける一大ポイントですね。
     しかしご安心ください。これは実に単純な覚え方があるのです。たぶんほとんどのドイツ語教室でこっそり教えられている方法だと思うんですが、「秘伝」としてなかなか活字化されませんので、ここでしっかりご紹介しておきましょう。


  2. 同じような語尾をさける
     ドイツ語に限らずインド・ヨーロッパ語族の言語の特徴として「一致」があります。形容詞が名詞を修飾するときは性・数・格を一致させる、動詞は主語と人称・数を一致させるなど、この語はこの語と関係あるんだよということを示すのに「一致」という手段を使うわけです。同じ文法的機能をもつ語尾はたいてい同じような音で終わりますから、必然的に同じような音の語尾が連続するということになります。
     しかしドイツ語では同じような音の語尾の連続を嫌うのです。それなら一致なんかやめりゃいいんですが、そのくせ一致はさせたいというのですからなんともわがままです。
     このように、「一致はさせたい。だけど同じ音の語尾の連続はイヤだ」という発想を頭にいれてドイツ語の形容詞の変化表を見ると、なんでこんなに複雑なのかがよくわかり、覚えやすくもなるというものです。


  3. まずは語尾表
     四の五の言わずまず形容詞の語尾表を掲げます。説明は後まわし。
     
    1格-er/-e-e/-e-es/-e-e/-en
    2格( )/-en-er/-en( )/-en-er/-en
    3格-em/-en-er/-en-em/-en( )/-en
    4格-en/-en-e/-e-es/-e-e/-en


  4. 強語尾と弱語尾
     それぞれ語尾が2種類ありますが、左側を強語尾、右側を弱語尾といいます。
     強語尾はdieserなど定冠詞類の語尾そのものです。弱語尾は-e-enだけ。覚え方は「単数1格だけ-e、あとはみんな-en、ただし女性と中性の4格は、1格=4格の法則(→「冠詞類」)によって-eになる」と覚えるのがわかりやすいでしょう。
     さて、強語尾と弱語尾の使い分けは次のとおりです。
     「できる限り強語尾を用いるが、直前に強語尾と競合する語尾をもつ冠詞類があったり、直後に強語尾と競合する格語尾(複数語尾を除く)をもつ名詞があれば、弱語尾を用いる」


  5. 使い分けの実例
     以下、Wein(m. ワイン)、Milch(f. ミルク)、Bier(n. ビール)、Bücher(pl. 本)に、gut(よい)をつけてみましょう。
     まず1格で形容詞のみがつく場合です。これは問題ありません。次にこれに定冠詞をつけてみましょう。すべて強語尾と競合するので弱語尾です。女性は弱語尾でも競合しますが、それは仕方ありません。
     では次に不定冠詞類をつけてみます。einだと複数形になれないのでmeinでいきます。男性と中性は強語尾でOK。女性と複数は競合するので弱語尾です。
     強語尾が( )となっているところは強語尾が存在しませんので必ず弱語尾になります。2格の例で説明しましょう。男性と中性は2格で名詞にsがつくので必ず競合します。ですから強語尾でなく弱語尾しか登場しないというわけです。複数のerは競合のうちに入りません。最初からBücherという形の名詞なのだと思ってください。
    名詞」にも書いたように、Mensh(人間)やJunge(少年)は弱変化といい、単数1格以外はすべて-enという語尾になります。この場合単数2格も-sがつかないので強語尾がつけられ、gutes Menshenのようにいえそうな気がします。実は歴史的にはそう言ってたらしいのですが、現代ではやっぱりguten Menshenになります。このあたり説明がちょっと苦しいですね。( )のところは強語尾が存在しないのだと思ってください。


  6. 述語的用法
     上記のような変化は形容詞の修飾語的用法、つまり名詞を修飾する場合です。述語として用いるときには、Dieser Wein ist gut.のように一切語尾をつけません。インド・ヨーロッパ語族の他の言語の場合はこういうときにも主語の性や数に従って変化する(格は主格つまりドイツ語でいう1格)のが普通ですが、ドイツ語の場合は一切語尾をつけないことに注意してください。


  7. 名詞的用法
     インド・ヨーロッパ語族の言語に共通する特徴として、形容詞はそのまま「~な人」「~なもの」という名詞としても用います。たとえばalt(古い)という形容詞はそのまま「古い人」つまり「老人」という意味の名詞になります。このときの変化はやはり上記修飾語的用法と同様で、「できる限り強語尾を用いるが、直前に強語尾と競合する語尾をもつ冠詞類があれば弱語尾」となります。


  8. 比較級と最上級
     比較級は-er、最上級は-(e)stをつけます。このとき主母音が変音する場合があります。なお、現在分詞は-dで終わりますが、これが最上級になると-dstとなります。このときの発音は「ツト」です。
     修飾語的用法の場合はこれに上述のような語尾がつきます。なお、最上級は必ず定冠詞がつくので弱語尾となります。
     副詞にも比較級や最上級がありますが、比較級は-er、最上級は-stenとなり、さらに最上級の場合は直前にamという語が必須になります。