[真理子日曜学校 - 聖書の言語入門(フレーム表示) ]
【ヘブライ語コース】

文字の読み方・1


  1. 一見とっつきやすそうですが
     何はともあれ、まずはヘブライ文字の見本として、創:1:1をヘブライ語で書いたものを見てください。
    בראשית ברא אלהים את השמים ואת הארץ׃
    見慣れない文字ですが、1つ1つの文字は四角くまとまっており、四角い漢字を使い慣れている私たちには特に違和感はありません。これがアラビア文字のように
    في البدء خلق الله السموات والارض.‏‏
    つながっちゃっている文字に比べれば、はるかにとっつきやすそうです。
     しかし、ヘブライ文字には大きな落とし穴がありますので、注意してかかる必要があります。


  2. 右から左に書く
     知っている人には当たり前のことなのですが、最初にハッキリ言っておかないと思わぬ誤解が生じるので、ハッキリ言って置きます。
     上のヘブライ文字は、右から左に書き、読むのです。
     同じように右から左に読み書きするアラビア文字は、上記のように単語ごとにつながっていますので、どうやっても右から左に書くしかなく、間違えようがありません。しかしヘブライ文字は、1つ1つの文字がわかれているので、強引に左から右に書こうと思えば書けてしまいます。
     行定勲監督の映画『遠くの空に消えた』は、タイトルがヘブライ語でも表記されているのですが、そのヘブライ語がなんと左から右に書かれているのです。こんなものを書いてしまったのでは末代までバカにされてしまいます。注意しましょう(ついでながらギリシア文字も出てくるのですが実は英語で、英字を単にギリシア文字に置き換えただけであるうえ、その置き換えも、Vをςつまりσの語末形で転写したりと、ずいぶんヘンですね)。


  3. 子音しか書かない
     そしてもう一つ重要なこと。上のヘブライ語文は、実は子音しか書かれていないのです。もちろんヘブライ語にも母音はあるのですが、それは表記されていないのです。
     ヘブライ語が属するセム語族の言語は、アラビア語にしろ古代エジプトのヒエログリフにしろ、文字で書くときに子音だけを書く傾向があります。それはなぜかというと、子音が意味の上で重要な役割をになっており、母音は文法的な役割を表すので、言葉がしっかりわかっていれば、「ここにはこういう役割の語が来るはずで、母音はこうなるはず」ということがわかってしまうのです。日本語でいえば漢字に振り仮名を振らなくてもたいていの文は間違いなく読めてしまうのと同様で、セム語族の言語の多くは、母音を書かないんですね。
    ついでながら、19世紀のヨーロッパの言語学者は、文字は漢字のような象形文字→日本語のカナのような音節文字→ローマ字のような(子音と母音をわける)音素文字というふうに進化してきたとして、音素文字を使っているヨーロッパ人が一番偉いのだと大真面目に信じていました。しかしなんのなんの、ヨーロッパ人だって昔は音節文字を使っていたんです(古代ギリシアの線文字Bとか)。人間やっぱり音節という単位で音を認識するのが自然であって、子音と母音を分けて書くという発想にはなかなか至らないものですからね。子音と母音を分けて書く発想は、セム語の「子音だけの文字」に触れて生まれたのです。フェニキアで用いられていた子音だけの文字をギリシア人が輸入して、ギリシア語を書くには子音だけじゃ不便なので母音を表す文字も作るなど悪戦苦闘をした末に、子音と母音を分けて書くギリシア文字が生まれたというわけです。
    しかし、日本語でも子ども向けの本には振り仮名が振られていますし、聖書や仏教のお経本のような聖典は、絶対読み間違いがあってはならないので振り仮名が振られていますね。それと同様で、ヘブライ語もアラビア語も、一応母音を表す補助的な記号があるのです。では母音記号をつけた形でさきほどの文を書いてみましょう。
    בְּרֵאשִׁית בָּרָא אֱלֹהִים אֵת הַשָּׁמַיִם וְאֵת הָאָרֶץ׃
    فِي البدء خلق الله السموات والارض.‏‏
    こんなふうに、いろいろな点を文字の上や下などにつけて表すのです。しかしヘブライ語やアラビア語を母語とする人にとって、このようなことは非常にわずらわしいものです。いや、わずらわしいどころか、よっぽど訓練をしていないとこのような記号を正しく打てません。ちょうど日本語でいえば、「アクセントを全部表記して」と言われるようなものでしょうか。「橋(は)」「箸(し)」、「スイカ」「イカ(JR東日本のICカード名)」みたいに、アクセントが変わると意味が変わることがあるほどアクセントは大事だし、正しいアクセントでしゃべっているはずなのに、アクセントを表記する習慣なんてないものだから、いざ書けといわれても、よほど訓練しないと普通の人にはまずアクセントを表記するなんて不可能でしょう。そんなもんです。
     このコースは入門ですし、聖書にはもともと母音記号がついていますから、一応すべて母音記号つきで書いていくことにしますが、母音記号は省略されがちであるということは知っておいてください。