[真理子日曜学校 - 聖書の言語入門(フレーム表示) ]
【バチェラーのアイヌ語コース】
数詞
- 1-10(連体詞)
次に来る名詞を修飾する連体詞(つまり、「1つの~」「2つの~」という形)が基本形であり、次のようになります。
- sine……1つの
- tu……2つの
- re……3つの
- ine……4つの
- asikne……5つの
- iwan……6つの
- arwan……7つの
- tupesan……8つの
- sinepesan……9つの
- wan……10の
- 個数を表す名詞
上記を「1こ」「2こ」という形にするには、pe(こと、もの、奴)という形式名詞を語尾として接続させます。母音で終わる語にはpという形になります。pe(p)はもともと形式名詞ですが、語尾扱いするのでローマ字表記ではつなげて書きます。なお、単に1、2と数えるときもこの形になります。
- sinep……1(こ)
- tup……2(こ)
- rep……3(こ)
- inep……4(こ)
- asiknep……5(こ)
- iwanpe……6(こ)
- arwanpe……7(こ)
- tupesanpe……8(こ)
- sinepesanpe……9(こ)
- wanpe……10(こ)
- 人数を表す名詞
上記を「1人」「2人」という形にするには、iw(人)という形式名詞を語尾として接続させます。母音で終わる語にはnという形になります。やはり語尾扱いでローマ字表記ではつなげて書きます。
- sinen……1人
- tun……2人
- ren……3人
- inen……4人
- asiknen……5人
- iwaniw……6人
- arwaniw……7人
- tupesaniw……8人
- sinepesaniw……9人
- waniw……10人
- 11-19
「1の位 ikasma 10」という書式になります。ikasmaは「余る」という意味の自動詞です。バチェラーはikashimaと書きます。個数を表す名詞のときはそれぞれ個数形、人数を表す名詞のときはそれぞれ人数形ですから、17(こ)はarwanpe ikasma wanpeです。17人はarwaniw ikasma waniwです。
連体詞のとき、たとえば「17頭のクマ」というときは、は少々(かなり)わずらわしいことに、「7頭のクマ ikasma 10頭のクマ」のように、修飾される名詞(この例ではクマ)を2回言って、arwan eper ikasma wan eperというのが原則です。これがわずらわしければ、最初に出てくる1の位のほうを個数形にして、arwanpe ikasma wan eper というふうに言うことも許容されます。
- 20-219
hotというのが20を表します。そしてhotの前に上記2~10の連体形をつけて(分かち書きしません)、2×20=40、3×20=60、……10×20=200を表します。つまり、
- hot……20
- tuhot……40
- rehot……60
- inehot……80
- asiknehot……100
- iwanhot……120
- arwanhot……140
- tupesanhot……160
- sinepesanhot……180
- wanhot……200
これらは品詞としては名詞ですが、個数形と人数形の区別なく、そして連体詞としても使うことができます。つまり無変化だということです。便宜的にこれを「hot系名詞」と呼びましょう(太田先生はそんな言い方していません)。
で、「上記1-19の表現 ikasma hot系名詞」という書式で、219までの数を表すことができます。たとえば- asikne ikasma hot……25
- wan ikasma hot……30
- asikne ikasma wan ikasma hot……35
(太字は個数ならpやpeのついた形になり、人数ならnやiwのついた形になります。以下同)といった具合です。いわば20進数ですね。
- e-hot系名詞
さて、この表現では31~39、51~59、71~79……といった数が、ikasmaを2回使うわずらわしい言い方になってしまいます。そこで、それらを縮めるための言い方として、
e-hot系名詞(hot系名詞の前にeを直接くっつけた形。母音連続しても気にしない)=hot系名詞-10
という言い方があります。つまり- etuhot=30
- erehot=50
- einehot=70
- easiknehot=90
- eiwanhot=110
- earwanhot=130
- etupesanhot=150
- esinepesanhot=170
- ewanhot=190
というわけです。
これら「e-hot系名詞」は単独で使うことはできず、あくまで、「ikasma hot系名詞」を縮約するためだけに用います。たとえば
- 30……本来はwan ikasma hotだが、wan etuhotも可。
- 35……本来はasikne ikasma wan ikasma hotだが、asikne ikasma wan etuhotも可。
という具合です。じゃ25だって、asikne ikasma hotだけどasikne etuhotになりそうな気がしますが、e-hot系名詞は30~39、50~59のように、10の位が奇数になる表現を縮約するためだけに使います。なんだか非常にわずらわしいですが、そんなもんだと思ってください。
- それ以上の数は?
こんな感じで何とか219まで来ましたが、それ以上の表現はアイヌ語にはありません。ですから大きな数を表現するには、造語をするか日本語などの外国語を借りるかしかありません。
100は上記のようにasiknehotですが、atuytaという別の言い方もあります。本来は動物を20匹単位、毛皮だと10枚単位をいう表現ですが、日本語の100に対応する短い言い方として代用したということらしく、本来のアイヌ語ではないらしいです。このatuyaという名詞を無変化名詞として、たとえば500はasikne atuyaなどと表現し、これをikasmaでつなげていくという発想が考えられます。たとえば535なら、asikne ikasma wan ikasma asikne atuyaというわけです。
太田先生の旭川アイヌ語教室では、1000をwanatuya、10000をikと呼んでいるそうです(STVラジオ アイヌ語ラジオ講座 2008年4-6月テキストp.21)。
バチェラーはそのつどいろいろ工夫しています。たとえば
日本語から借用した例……go sen nin五千人(Mat:14:21)
強引に乗り切った例……re shine wan hot newa iwanbe ikashima re hotne六百六十六(3×200と66)(Rev:13:18)
いずれにせよ、数詞については伝統的な20進数を生かしつつも、商業・経済・科学技術分野ではもっと簡単な言い方を導入するなどの工夫が必要になるのでしょう。