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都が滅んでから三十年目、エズラという別名を持つわたしサラティエルはバビロンにいた。わたしは寝床に横になっていると、心が乱れて、さまざまな思いがわたしの胸に浮かんで来た。
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なぜならわたしは、シオンが荒れ果ているのに、バビロンに住む人々は栄えているのを見たからである。
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わたしの霊は激しく動かされ、いと高きお方に向かって真心から次のようなことを言い始めた。
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「ああ、世を治めなさる主よ。あなたは世の始めにおひとりで地をお作りになったとき、み言葉を発し、ちりに命じられたので、
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ちりは生命のない体であるアダムを生じました。しかしそれはまたあなたのみ手によって造られた無生物にほかなりませんでした。そしてあなたがその中に生命の息を吹き込まれたので、彼はみ前に生けるものとなりました。
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そしてあなたは、地が現われる前にあなたの右手でお作りになった楽園に彼を導き入れました。
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あなたは彼に、してはならないことをひとつだけお与えになりました。しかし彼はそれを犯したのです。そこであなたは直ちに彼とその子孫を死ぬべき運命に定められました。アダムからは無数の国民や部族、民族や家族が生まれました。
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そしてその民はそれぞれ思いのままに歩み、み前で悪事をおこない、あなたのいましめを軽んじました。しかしあなたは彼らを制止なさいませんでした。
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けれども再び時が来ると、あなたは世に住む人々の上に洪水をもたらし彼らを滅ぼされました。
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こうして彼らは同じ運命に陥りました。死がアダムに臨んだように、彼らにも洪水が臨んだのです。
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しかしあなたは彼らの中からただノアとその家族だけを、彼から生まれた正しい者すべてと共に残されました。
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けれども地に住む人々が増えはじめ、子らや民や多くの国民が増えてくると、再び以前の人たち以上に悪い振舞いをしはじめました。
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そして彼らがあなたのみ前で不義を行ったとき、あなたはみずからのために彼らのうちから一人を選ばれました。その人はアブラハムという名前でした。
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あなたは彼を愛して、彼にだけ夜にこっそりと、時の終りを示されました。
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あなたは彼と永遠の契約を結び、決して彼の子孫を見捨てないと約束されました。そしてあなたはアブラハムにイサクを与え、イサクにヤコブとエサウを与えられました。
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あなたはご自身のためにヤコブを選び、エサウを遠ざけられました。そしてヤコブは大いなる民となりました。
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あなたはヤコブの子孫をエジプトから連れ出されると、シナイ山の上に導かれました。
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その時あなたは天を傾け、地を動かし、世界をゆさぶり、深い淵をおののかせ、世を震えあがらせました。
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そしてあなたの栄光は火と地震と風と氷という四つの門を通り過ぎました。それはあなたがヤコブの子孫に律法を、イスラエルの子らにいましめを与えるためでした。
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しかしあなたは彼らから邪悪な心は取り去られませんでした。それはあなたの律法が彼らの中で実を結ぶためでした。
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つまり最初のアダムが悪い心の重荷を背負って罪を犯し、打ち負かされたのです。そればかりか彼から生まれたすべての者も同じでした。
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こうして人の弱さは常に変わらないものとなり、律法は悪の根と共に人の心に留りました。よいものは去ってしまい、悪いものが残ったのです。
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そして時は過ぎ、年月がたちました。そしてあなたはダビデという名のしもべをご自身のためにおこされました。
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あなたのみ名を高めるための都をダビデに建設させ、そこであなたのお与えになったものの中からいけにえを捧げるよう命じられました。
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このことは長年行われましたが、都に住む人々は罪を犯し、
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何事につけてもアダムとその子孫同様にやってしまいました。というのは彼ら自身も悪い心を抱いていたからです。
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そこであなたはご自分の都を敵の手に渡されたのです。
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わたしはその時心に思いました。『バビロンに住む者たちは、われわれよりましなおこないをしているというのか。そのためにシオンを支配したのだろうか』。
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しかしわたしはここに来て、ローマの民が数々の悪事を行うのを目にしましたし、わたしの魂はこの三十年間多くの人が罪を犯すのを見ました。そこでわたしは気がめいりそうになりました。
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なぜなら、あなたがあまりに彼ら罪びとを支持し、悪事を行う彼らを大切になさり、ご自分の民を滅ぼして敵をお守りになったかを見たからです。しかもあなたは次のことを誰にもまったく示してくださいませんでした。
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どうすればあなたがこのようなことをやめてくださるかを。バビロンのほうがシオンよりましなことをしているのでしょうか。
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イスラエルの他の民があなたを知っているのでしょうか。ヤコブの部族のほかのどんな部族があなたとの契約に忠実だったでしょうか。
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それなのにヤコブの部族は報われず、労苦は実を結びませんでした。なぜなら、わたしは諸国民の中を広く旅をして、彼らがあなたのいましめを心に留めていないのに繁栄しているのを見たからです。
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ですから今、われわれの不義とその他の世に住む人々の不義とをはかりにかけてみてください。そうすれば、はかりがどちらに傾くかがわかるでしょう。
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また地に住む人々が、いったいいつ、あなたのみ前で罪を犯さなかったでしょうか。イスラエル以外のどの国民が、あなたのいましめをこんなに守ったでしょうか。
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たしかに個々の人としてはあなたのいましめを守った人はいるでしょう。しかし民族としてはいないでしょう」。
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