変体仮名の読み方

  1. 漢字を意識しながら読む
     「変体仮名とは?」で見たように、今でこそひらがなは一音一字ですけど、もともとは同じ音でもさまざまな字があったのです。そのうち今では用いられなくなったものを変体仮名と言います。
     変体仮名を読むコツは、「必ず文脈を見ること」「元の漢字を意識しながら読むこと」の2点です。「変体仮名とは?」で、一見「う」に見える仮名を、文脈上そうは読めないのでいろいろ推測しながら、(可の略)だから「か」だ、なんて読んだ要領です。
     でも、仮名なのになぜ漢字を意識しなければならないのでしょうか。


  2. 女じりにさすべし
     突然ですが、「目薬」という落語をご存知ですか?
     バレ噺(エッチな落語)なので恐縮ですが、目薬を処方された旦那が、使用法の「めじりにさすべし」を「女じりにさすべし」と読んでしまい、奥さんを裸にしてお尻の穴に目薬をさす、という話です。ひょっとしたら「初めて聞いた」という人もいるかもしれないので、下げ(落ち)を書くのは自粛しますが、実は旦那さんの誤読も無理からぬところがあります。
     というのは、この使用法には本当に「女じりにさすべし」と書いてあったに違いないのですから。「め」と「女」って同じ文字の書体の違いにすぎないんですよ。もし江戸時代にコンピュータがあって、文字コードが設定されたとしたら、「め」と「女」には同じコードが割り当てられたかもしれません。
     同じ「女」という文字を「をんな」という意味をもった字として読めば漢字として、「め」という音をもった字として読めばひらがなとして扱っているというわけです。「女狐」みたいに「め」と読むし女という意味も持つという場合は、グレーゾーンですね。結局ひらがな=漢字なんですよ。


  3. ひらがな=漢字
     ひらがなというのは、漢字の意味を無視して音だけを借りて、すべて「漢字」で書き表す表記体系です。今でも落語家さんの名前にある「小里ん」さんや「志ら乃」さんも、「里」「志」「乃」の部分は漢字の意味がありませんから、実質的に変体仮名です。こういう表記がひらがななのです。
     ですからひらがなは無数に存在します。極端にいえば、どんな漢字でも、その音だけを借りて使えばすべて「ひらがな」です。もっとも、ひらがなとして通常使われる字はかなり限られてきますが、たまに独特なものが出てきたりします。
     「音」と書きましたが、必ずしも音読みを借りているとは限りません。たとえば「よ」の仮名のうち、(与)は音ですが、(代)や(米=よね)は訓を借りています。
     しかし音を借りるにしろ訓を借りるにしろ、仮名として用いる以上は一字一音が絶対の原則です。たとえば今のを「よ」ではなく「よね」と読むのであれば、それはすでにひらがなではなく漢字としての用法ということになります。
     こうしてみると、上で「必ず文脈を見ること」と書いたのには、二重の意味があることにお気づきでしょうか。一つは、他のまぎらわしい字との識別のため、もう一つは、この字だと特定できたあとでも、それをかなとして読むのか漢字として読むのかという問題があるということです。それを決定するのも文脈なのです。
     だから、かなは言葉を知らないと読めません。まるきり未知の文字列はかなとして読めないということになります。外国語の音の表記などはまるきり未知の文字列になることが多いので、それで、原則一音一字であるカタカナを使うんですよ。


  4. かな一覧
     今昔文字鏡のGIFリンクサービスに存在する文字に限ってリストアップしました。これ以外にもいろいろあります。
     同じ字の略が続くときはその最後の字のあとに元の漢字を記しました。なお、冒頭の赤字ももちろん「仮名」の一部です。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     壽・春
     
     曾・曽
     
     
     
     亭・帝
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     (=部の右側)
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     (己のような字形になることが多い)
     
     
     
     
     


  5. カタカナ
     カタカナには原則としてこういう多様性は存在せず、一音一字でした。昔はカタカナのほうがシンプルでやさしかったのです。ですから外来語の表記にはカタカナが用いられることが多かったのですし、子どもは昔はカタカナの学習からスタートしたのです。
     それでもまれに、「変体カタカナ」が存在します。でもせいぜい、
    井=ヰ、子=ネ、三=ミ
    という程度です。
     そのかわりといっては何ですが、よく出てくる音の連続を一文字で表す合字がいくつか存在しました。これらは明治期の聖書にもたまに出てきます(それどころか谷崎潤一郎の『鍵』にも出てきたりします)ので知っておいて損はありません。
     (トキ)、(トモまたはドモ)、(コト)、(シテ)。
     合字といえば、ひらがなですが、次のようなものもあります。
     (より)、および(こと)。
     


  6. 参考書
     国文科に入るとこういう仮名を読む訓練が待っています。今の学生はどうか知りませんが、真理子のころはともかく「習うより慣れろ」「読めなくてもともかく読め」流でした。でも最近は親切な本がありますね。
    アダム・カバット『妖怪草紙―くずし字入門』(柏書房 2001)
    この本はおすすめです。江戸時代の妖怪が出てくる草双紙を読みながらステップアップ式に仮名を読む練習ができます。それにしても日本の古典の読み方を外国人に習うというのは不思議な気分ですね。いや、外国人だからこそ「かゆいところに手が届くようなきめ細かな学習書が作れる」のかもしれませんよ。
     また、WEBサイトでは次が練習になるかもしれません。
    いにしえのもじをよんでみよう
    いずれにせよこの手の本は、江戸時代には無学な女子供が読んでいた本です。慣れればあなたも絶対に読めるようになります。がんばってください。
     当サイトも人任せにせずに簡単なコースを用意しました。次の「板かるたで学ぶ変体仮名1」以降をご覧ください。