実は宗教歌? Let it be 将来作るであろう真理子教会は、たぶんカトリックかアングリカンそっくりの典礼にするだろうけど、独自の讃美歌も取り入れたい。私の年齢からして往年のうたごえ喫茶ふうに、反戦歌をいっぱい取り入れ、毎回の典礼のどっかで1曲だけ歌う。 そのうちの重要な候補が、ビートルズのLet it be.なのである。 Let it beはMother Maryつまり聖母マリア様が出てくるとおり、きわめて宗教的な歌であり、マリア信仰をとりいれる真理子教にはぴったりなのである(もっとも真理子教のマリア様は処女などではなくむしろ「肝っ玉かあさん」なのだが)。 ポール・マッカートニーは「お母さんの名前がMaryだ」と言ってはぐらかしているようだけど、次にあるとおりこの歌詞は聖書をふまえているのである。
実はルカの受胎告知のシーン ちゃんと歌える日本語訳詞がないかと思って探しているうち、「Let it be の歌詞の完全翻訳に挑戦」とうたった次のサイトにめぐりあった。
この人がちゃんとつきとめているように、Let it be.とは、実はルカ1:38にある、受胎告知のシーンでマリアの言うセリフなのである。 ところがこのサイト、うじゃうじゃ書いてる割に、そしてLet it beってのがルカ1:38であることをつきとめてる割に、私にいわせれば、肝心のLet it beの訳がとんでもない誤訳なのである。「そのままにしておきなさい」ですって。違う違う違う。 ルカ1:38は新共同訳では「お言葉どおり、この身に成りますように」。これの冒頭がLet it beなんだから、「成りますように」じゃないの? だいたいこのサイト、「Let it be には主語がありません。つまりこれは命令文です。従って「~させてあげなさい」と言うような意味になります。」と書いてある。これが大間違い。 命令文でないなら何なのか、実はこれも「宣誓論争」でとりあげた「祈願文」なのである。やっぱり祈願文って、今の人にはわかりにくいのね。 以下、ちょっと詳しく検討する。
この冒頭のγένοιτόは、γίνομαι(なる)の第二アオリストの希求法単数三人称。希求法っていうのがポイントよ。命令じゃないのよ。命令法は別にあるんだから。「なれ」じゃなく「なるように」なの。 実は英語にもこれにあたる形がある。イギリスの国歌って、God Save the Queen(King). でしょ。よく見ると、主語が三人称単数なのにSavesになってない。これが希求法。英文法だとふつう仮定法現在っていう。形としては動詞の原形そのまま。構文としては祈願文っていって、「神が女王を守る」じゃなく、「神が女王を守るように」って意味になる。このようにしゃべった人の希望・願望・祈りを表すのよね。神の希望じゃないわよ。こうしゃべった人の希望。 わかりにくいときは、冒頭にMayを補う。May God Save the Queen.みたいに。英文法の本ではこの形で説明してるはず。でも冒頭のMayはオプション。なくてもいい。 最近の高校英語はすっごく簡単になっちゃったけど、私らが高校生のときはこれちゃんとやったんだけどな。これ、祈願文ってやつなのよ。 Let it beだからわかりにくかったんで、May it beならもっとわかりやすかったかしら。 ルカ1:38は伝統的な英訳では、
とりあえずの正確な訳 てなわけでLet it beは実は祈願文だったわけなのである。 itは形式的な主語。「according to your word」を受けてるととるとわかりやすい。「あなたの言葉が」実現しますように。祈願文の意志はこれをしゃべった人の意志。マリア様の意志なの。 受胎告知のシーンでは天使ガブリエルが出てくるので、英語のyour wordのyourとか、ギリシャ語のτὸ ῥῆμά σουのσουっていうのは、ガブリエルをさしている。ところがLet it beの場面ではガブリエルは登場しない。まあガブリエルなんてただのメッセンジャーにすぎず、実質的に神様のみことば、みこころと考えていい。 だから真理子教ではLet it beを「神様のみこころのままになりますように」と訳す。 困ったときにはマリア様が登場して私たちのかわりに祈ってくれるのだ。マリア様の役割はまさに「私たちのかわりに祈る」ので、神学的にもぴったりである。