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するとわたしのもとにつかわされた、ウリエルという名の天使が答えて
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言った。「あなたはこの世のことも大いにとまどっているのに、いと高きお方の道を理解したいと思っているのか」。
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それでわたしは、「わが主よ、そのとおりです」と言った。すると彼はわたしに答えた。「わたしはあなたに三つの道を見せ、三つの比喩を示すために遣わされたのだ。
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もしあなたがそのうちの一つでも解き明かせたら、わたしもあなたが見たがっている道を示し、なぜ人の心が悪であるのか教えよう」。
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そこでわたしは言った。「わが主よ、お話しください」。すると天使は言った。「では、わたしに火の重さをはかってみせなさい。吹く風をはかってみせなさい。また過ぎ去った日を呼び戻してみせなさい」。
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わたしは答えた。「人として生まれた者のうち、いったい誰にできると思って、あなたはわたしにそんな質問をなさるのですか」。
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すると天使は言った。「では次のようにたずねたらどうだろう。海の底には住み家がいくつあるか、深き淵の源には泉がいくつあるか。天の上には星の道がいくつあり、そのうちのどれが天国へ通ずる道なのか、と。
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そうしたらおそらくあなたは言ったであろう。『わたしは深き淵に降りたことはありませんし、いまだ陰府に下ったこともなければ、いまだかつて天にのぼったこともありません』と。
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しかし今わたしがあなたにたずねたことは、火とか風とか、あなたが過した日のことにほかならない。あなたはそういうものと切っても切り離せない関係なのに、答えられなかった」。
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天使はさらにわたしに言った。「あなたは育って行くうえで自分にかかわりのある、あなた自身のものを知ることさえできない。
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それなのにどうしてあなたのような器で、いと高きお方の道を理解することができようか。この腐敗した世に脅やかされた者がどうして永遠を理解することができようか」。 これらの言葉を聞いた時、わたしはひれ伏して
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天使に言った。「この世に生まれて不信仰の人々のうちに生き、苦しみ、そしてそれがなぜなのかがわからないくらいなら、われわれは生まれない方がよかったのです」。
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すると天使は言った。「わたしはかつて、野の森のところへ出かけたことがある。すると木々は相談して
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言った。『さあわれわれは海に行って、われわれの前から退かせるために海に戦いをしかけよう。そしてもっと森を広げよう』。
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同じように海の波の方でも相談して言った。『さあ、もっとわれわれの領土を拡げるために、のぼって行って野の森を征服しよう』。
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しかし森の企ては失敗した。なぜなら火が来て森を焼き尽したからである。
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同様に海の波の企ても失敗した。なぜなら砂が立ちはだかって海を制したからである。
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さて、もしあなたが両者の裁判官だったら、どちらを義と認め、どちらを罪に定めるだろうか」。
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そこでわたしは答えた。「両方ともばかばかしいことを考えたのです。なぜなら森には土地が与えられているのですし、海にはその波を運ぶ場所が与えられているのですから」。
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すると天使は答えた。「見事なさばきだ。それならどうして、自分自身について同じようにさばかないのか。
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森に陸が与えられ、波に海が与えられているように、地上に住む者は地上のことしか理解できないのだ。だから高い天のことは、天に住む者にしか理解できないのだよ」。
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そこでわたしは答えた。「主よ、どうか教えてください。どうしてわたしには理解力が与えられているのでしょうか。
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つまりわたしがおたずねしたかったのは、天の道のことではなく、われわれが日々経験することなのです。どうしてイスラエルは諸国民の侮辱にゆだねられたのですか。どうしてあなたが愛しなさった民が不信仰の者どもに引き渡されたのですか。どうしてわれわれの父祖の律法は無に帰し、書かれたいましめが失われたのですか。
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われわれはこの世からいなごのように去りゆくのです。命は霧のようにはかなく、憐みを受ける価値もありません。
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しかし神は、われわれに与えられたみ名のために何をなさるのでしょうか。こういうことをわたしはおたずねしたのです」。
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すると天使は答えた。「もしあなたが生きていればその答えを見るだろうし、さらに生きながらえばその答えに何度も驚くことだろう。世は実に速やかに過ぎ去って行くので、
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この世は、その時々には正しい者への約束を実現することはできないのだ。この世は悲しみ弱さに満ちあふれているのだから。
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あなたが質問している、もうすでに蒔かれてしまった悪は、まだ刈り入れの時が来ていないのだ。
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蒔かれた悪が刈り取られ、悪の蒔かれた場所がなくなってしまわなければ、畑に良いものが蒔かれている時は来ないだろう。
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一粒の悪の種が初めにアダムの心に蒔かれたので、今までに実に多くの不信仰の実を結んだことだろう。そして脱穀の時が来るまで、今後も実を結ぶことだろう。
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考えてもみよ。一粒の悪の種がどんなに多くの不信仰の実を結んだかを。
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とすれば、数えきれないほどの良い穂の種が蒔かれた時には、どんなに大がかりな脱穀をすることになるだろうか」。
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そこでわたしは答えた。「それはあとどのくらいで、いつやってくる事なのですか。なぜわれわれの生きる年月は短く、しかも不幸なのですか」。
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天使は答えた。「いと高きお方をせかせてはならない。なぜならあなたは自分だけのためにせいているが、いと高きお方は多くの者のことを考えているのだから。
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義人の魂が陰府の住み家でたずねたのも、まさにそのことではなかったか。彼らは言った。『わたしはいつまでこうして待つのですか。よい実が脱穀されてあらわとなる、つまりわれわれが報われるのはいつなのですか』
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すると大天使エレミエルは答えた。『あなたがたのような人の数がいっぱいになった時だ。すなわち神ははかりで世をはかられ、
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升で時をはかられ、数によって時をはかられた。そして予定の升目がいっぱいにならないうちは、神は何も揺り動かさないし、何も呼びさまさないだろう』と」。
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わたしは答えた。「おお世を治める主よ、しかしわれわれもみな不信仰な者です。
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義人への報いの実の脱穀が妨げられているのは、もしやわれわれのためではないでしょうか。地上に住む人々の罪のせいではないでしょうか」。
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天使は答えた。「行って身ごもった女に聞いてみなさい。九ヶ月が満ちたのに、まだ子宮の中に子を入れておけるかと」。
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わたしは言った。「主よ、不可能です」。すると天使は言った。「陰府にある魂の住み家も同じようなものだ。
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子を産む女が産みの苦しみを早く逃れようとするように、魂の住み家も世の始めからの死者たちの魂を早く出したいのだ。
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その時こそあなたが見たがっていたものが見えるだろう」。
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それでわたしは答えた。「もしわたしがあなたにお許しいただけるのなら、もしできましたら、またわたしがそれにふさわしいなら、
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どうか次のこともわたしに教えてください。過ぎ去った時よりも、きたるべき時の方が長いのでしょうか。それともすでに時は半分以上われわれの上を通り過ぎてしまったのでしょうか。
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というのはわたしは過去のことは知っていますが未来のことは知らないのですから」。
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すると天使は言った。「わたしの右に立ちなさい。そうすればひとつの比喩を解釈してあげよう」。
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わたしが立つと、次のようなものが見えた。燃え盛るかまどがわたしの前を通り過ぎているではないか。そして炎が通り過ぎた時、煙が残っているのが見えた。
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そしてその後、水をいっばい含んだ雲がわたしの前を通り過ぎ、激しい勢いで雨をいっぱい降らせた。そして豪雨が通り過ぎると、雲の中には雨のしずくが残った。
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すると天使は言った。「自分で考えてみよ。雨が滴より多く、火が煙より大きいように、過ぎ去った時の量ははるかに多かった。しかしそれでも滴と煙が残っている」。
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わたしは懇願した。「あなたはわたしがその日まで生きているとお思いですか。でなければ誰がその日に生きているのでしょうか」。
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天使は答えた。「あなたがたずねているしるしのことなら、ある程度までは話すことができる。しかしわたしはあなたの寿命を告げるために遣わされたのではないのだから、わたしも知らない。」
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