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第58章 ヒラマンの手紙(おわり)。マンタイ市の前に於けるニーファイ人の作戦。レーマン人の出撃。ギドとテオムネル、マンタイ市を取る。敵退く。 われらの第二の目的はマンタイ市を落すことであった。しかしわが小さな隊を以てしては、どうしても敵をその市から誘い出すことはできなかった。われらが前に用いた策はレーマン人が憶えていたから、かれらをその堅固なとりでから誘い出すことはできなかった。
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また敵はわが軍よりもはるかに大軍であったから、われらは思い切って出て行って敵がとりでにこもっているままを攻めなかった。
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そうするよりは、これまでに取り返した自分の地を引きつづき護るために全軍を使うことが必要であった。それであるから、ゼラヘムラの地から援兵と新しく食糧の来るのを待つよりほかに仕方がなかった。
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その時、われは使者をわが国の統治者のもとへつかわし、この所のわが民の事情を知らせてゼラヘムラの地から来る食糧と援兵とを待った。
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しかし、レーマン人もまた毎日多くの援兵と食糧とを受けていたから、われらがこのようにして待っているのは非常に不利益であった。実際、このころわれらはこのような有様であった。
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レーマン人はたびたび出撃してわれらを攻め、計略によってわれらを亡ぼそうと決意していたが、敵には逃れる所ととりでがあったのでわれらはどうしてもこれと戦うことができなかった。
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われらはこのような難儀な有様で数箇月を送り、とうとう飢死をせんばかりであったが、
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ようやく、われらを助けるために二千人の援兵が守って運んできた食糧がとどいた。われらとわが国とを敵の手に落ちないように守って、無数の敵と戦うのを助けるために送られた食糧と援兵とは実際これだけであった。
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この困難の原因、すなわちもっと多くの援兵がわれらに送られなかった原因はわれらに解らなかった。それでわれらは心配をして、何かして神の裁きがわが国に下りわれらを覆して全滅させるようになりはしないかと言うことを恐れた。
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それであるから、われらは全身全霊を傾けて神に祈り、われらを強めて敵の手から救いたまわんことと、われらにわが民を救って養わせるため、われらのもろもろの都市と所有する土地と持物とを守る力を与えたまわんこととを請いねがった。
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そこでわれらの神である主はわれらを救い出すと言う保証をたまわり、われらの心を安んじ、熱い信仰を授け、神によって助けられると言う望みを心に起させたもうた。
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これによって、われらは僅な援兵を得て勇気を出し、敵に勝ってわれらの所有する土地、持物、妻子および自由の道を守ろうと堅く決心をし、
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マンタイ市にいたレーマン人と戦うために奮い立って進軍し、マンタイ市に近い野の附近に陣を張った。
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翌日、レーマン人はわが軍が都市に近い野の附近の国境へきたことを知り、わが兵の数と力とを探り知るために間者をわが軍のまわりに出したが、
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数に於てわが軍が強くないのを見、出撃してわれらを殺さなかったなら食糧を運ぶ道がわが方に断ち切られるかも知れないと思い、またその無数の兵でたやすくわが軍を亡ぼすことができると思って戦に出る用意にとりかかった。
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われらはレーマン人が戦に出る用意にとりかかったのを知ったから、われはギドとテオムネルとに各々僅の兵をつけて野に隠れさせた。
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ギドとその兵は右に居り、テオムネルとその兵とは左に居った。こうしてかれらが隠れてから、われと残りの兵とは最初に陣を張ったところに止まっていてレーマン人が出てくるのを待った。
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するとレーマン人は大軍を以てわれ向って出てきたが、進んできて正に剣でわれらを殺そうとするや、われは一しょに居た兵に命じて野の奥へ退かせた。
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これを見るとレーマン人は、ぜひ追いついてわれらを殺したいと思い、大速力で野の奥へわれらを追いかけてきた。われらはギドとテオムネルとの間を通りすぎたから、この二人はレーマン人に見出されなかった。
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レーマン人の軍が通りすぎてしまうと、ギドとテオムネルとは隠れていた所から出てきて、レーマン人の間者たちがマンタイ市へ帰れぬようにまずその道を断ち切り、
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次にマンタイ市へ走って行ってその市を守るために残っていた番兵におそいかかりこれを殺して市を占領した。
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これはレーマン人が僅の番兵だけをのこして全軍こぞって野へ誘い出された失錯によるのである。
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ギドとテオムネルとはこの機に乗じて敵のとりでを占領した。わが兵は暫くの間野を逃げて歩いてからゼラヘムラの地方を指して進んだ。
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この時レーマン人はわれらがゼラヘムラの地方へ向って進むのを知って、これは自分らを滅亡に誘う策があるのではないかと非常に恐しがり、われらを追かけてきた道を通って野へ引き返した。
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夜になってレーマン人の大士官らは、ニーファイ人は退却のためにもはや疲れたであろうと思い、またすでにニーファイ人の全軍を追いはらってしまったと思って天幕を張り、マンタイ市のことは少しも心にかけなかった。
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しかしこの夜われはわが兵らを眠らせず、別の道からマンタイの道へ進軍させた。
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このように夜道を急いだから、われは翌日までにもうレーマン人の先になってかれらより早くマンタイ市へ着いた。
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この計略でわが軍には何らの死傷もなくマンタイ市を占領することができた。
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さてレーマン人の軍が都市の近くへきて見ると、われらが先にそこに居て戦の備えをしているのを見て非常に驚きうろたえて野へ逃げて行った。
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それからレーマン人の諸軍は全く国のこの地方から引き上げたが、見よ、かれらはわが国から多くの女子供とりこにしてつれ去った。
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レーマン人が前に占領していた都市は、われらがみな取り返して所有している。とりこになってレーマン人のために他国へつれて行かれた者のほかは、われらの親や女や子供たちは今それぞれの家路についている。
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しかし、見よ、かほどに多くの都市と広い土地と持物とを固めて守るためにはわが軍は小さすぎる。
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しかしわれらは、われらにこの勝利を得させ、さきにわれらが持っていた都市と土地とを取り返させたもうたわれらの神に頼っている。
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政府は何故にもっと大きな援助をわれらに送ってこないのか、われらもまたわれらの所へきた援兵もそのわけを知らない。
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われが思うに政府は事に失敗し、兵を国内に出したのかも知れぬと。はたしてそうならばわれらは不平を言うまい。
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もしそうでなければ、おそらく政府に或る徒党が起ってそれがためにかれらは援兵を送ってこないであろうと思う。なぜならば、政府がすでにこちらへ送った者のほかに援兵となる者が多くあることを知っているからである。
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たとえどうでも、わが軍隊が弱力であるにもかかわらず、われらは神がわれらを助けて敵の手から救いたもうことを信ずる。
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今は二十九年目の暮であって、われらは所有の地をとり返し、レーマン人はもはやニーファイの地へ退いた。
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そしてわれが先にほめたたえたアンモンの民の息子らは、今われと一しょにマンタイ市に居る。主がこれを助けて剣に倒れないように守りたもうから、その中の一人も殺された者はない。
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かれら多くの傷を負ったけれども、神がかれらを自由な者になしたもうたその自由の道を堅く守り、毎日必ず自分の神である主を思い、慎んでたえず神の律法と裁決と命令とに服従し、将来にかかわる予言を固く信じている。
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さてわが愛する兄弟モロナイよ、ねがわくはわれらを贖って自由になしたもうたわれらの神である主が、常に汝を御前に居らせたまわんことを。またねがわくは主がこの民を恵みたまい、レーマン人がわれらから奪い取った生活に必要な品をことごとく汝に取り返させたまわんことを。われはこれでこの手紙の結びとする。われはアルマの子、ヒラマンである。
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