[真理子日曜学校]
 

性別適合手術


 
  1. 手術をしてくれた病院
     真理子は大の精神科嫌いだったので、長らく「私には性同一性障害の診断なんて得られっこない。外国に行けばともかく、日本で手術なんてムリ」と思っていましたが、精神科医の診断が不要でいきなり手術をしてくれる病院が、なんとこの日本にもあったのだということがわかって、たまたままとまったカネを持っていたということもあり、ぱっと手術を受けてしまったんですね。
     まずその病院を紹介しておきましょう。名古屋にあるフローブクリニックという美容外科です。
     ここ以外にも、たんねんにネットを検索すれば、まだまだあるかもしれません。たとえば銀座界隈にそういう病院があるらしいです。しかし、精神科のガイドラインに従わないで性別適合手術を行うのは、違法ではないにせよ、アングラなところがあり、どの病院もあんまり大々的に宣伝しているわけではありませんから、見つけるのが大変かもしれません。
     それにこの病院は、土肥いつきさんという方が手術を受け、しかもその様子が映画『Coming Out Story』に記録されているのです。それなら確かだ、というので、この映画を見た私はさっそく連絡をとり、さっそく手術を受けたというわけです。

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  3. 手術の概要
     手術の名称としては「陰茎切除術」「睾丸摘出術」なんですが、要は男性器を全部とってしまうこと、そして女性器のうち、ワレメ、小陰唇、クリトリス、尿道口を作ってそれっぽくします。
     さらに頼めば「造膣術」もメニューにありますが、相談の上、それはなしということになりました。造膣をしない理由は次の項に回します。
     これで費用は105万円。高いですか? そうでもないですよね。意味合いの大きさにくらべればたいした手術じゃないんです。
     前日の朝は大便に具が混じらないように主食主体の簡単な食事をして、昼からは絶食で水分補給のみ。当日の朝に念のため浣腸して中身を全部出し、性器に生えた毛を全部剃って臨む。もともと男性時代は毛を全部剃ってはいたんだけど。
     10時に病院に入って早速手術開始、全身麻酔で眠らされているうちに全部終わってしまう。起きたのは17時。私の場合ちょっと太っていたのでけっこう大変だったらしいのだけど、普通の人なら5時間くらいで終わってしまうらしい。
     この日の夜は病院に宿泊。町の小さな美容外科なので入院設備はなく、他の客の目に触れないように奥の部屋に幽閉されたままで、院長が一緒に泊まってくれるのみ。当日はさすがに何ものどを通らない。指示されてウイダーインゼリーを1つ食べてみるけど全部戻してしまった。
     それでも翌朝になると体力は回復し、何でも食べられるようになったから不思議なものだ。これで食事の制限は完全になくなり、退院して近くのホテルに投宿。この日の夜は東京から見舞いに来てくれた友人と一緒にイタリアンレストランでワインをボトル1本空けてしまったほどだ。だって土肥いつきさんって、手術の翌日に大酒くらったらしいので、じゃ私も大丈夫だって思ったんだもの。大丈夫でした。

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  5. 手術後の生活
     金曜日に手術。その日は病院に泊まり、土曜日に退院して近所のホテルに。ここに土・日・月・火と3泊4日滞在した。
     局部は尿道にカテーテルがささっているばかりか、Vゾーンに2箇所、うみを出すためのドレナージという管が刺さっている。ここからぽたぽたと赤い液体が出てきて大変。近所の薬局で「多い日用ナプキン」をたくさん買ってあてがい、数時間ごとに交換する。
     そういう状態であるのさえ耐えられれば外出も可能。特にホテルは午前中清掃のために空けなければならないので、私はけっこういろいろ出掛けていた。日曜日は性同一性障害の後藤香織さんが司祭をつとめている聖公会名古屋聖ヨハネ教会の礼拝に行ったりもした。
     火曜日にホテルをチェックアウトした後、病院に立ち寄って股間を点検してもらう。かなり順調で、ドレナージの管を外してもらい、シャワーの許可をもらって新幹線で横浜の自宅に帰宅。以後は自宅でシャワーしつつ、おしっこ袋を持ちながらの生活。その翌週の水曜日に再び名古屋に行って尿道のカテーテルを外してもらい、ここからは完全に普通の生活になる。
     たぶん埼玉医大などガイドラインに従った病院だと、ここまで1~2週間、へたすりゃ手術前数日も入院生活でしょうね。美容外科ゆえ入院の設備がなく、ホテルにこもって自分で養生しなきゃならなかったわけですけど、それが可能なほどに、性別適合手術ってちゃちな手術なのよ。

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  7. 造膣しない理由
     上で書いたように私には膣がありません。永遠の処女ですね。
     この病院のHPにも書かれていますが、膣を作るのって大変だし、維持管理が大変。そのわりに、男性とセックスする予定がなければまるきり無用の長物です。子を産むわけでもなく生理があるわけでもなし。せいぜい自分で指を入れて遊ぶくらいのことしかできませんから。膣を作らなくても戸籍の性別変更には全然問題がないので、この病院では勧めていないんです。
     膣を作るには医療用ドリルで肛門近くに深さ20センチほどの穴をあけねばならず、手術時、さらに維持管理時に間違って傷つけて直腸まで突き破ってしまうということがけっこうあるらしい。
     皮膚は、以前は陰茎の皮を裏返して利用していたようですが、粘膜ではないため濡れません。セックスのときは必ずゼリーを塗らないと痛くてたまらないらしい。今ではS字結腸を切り取って作るらしく、これだと濡れる膣になりますが、もとがS字結腸ですからかなりクサいらしい。
     そして、絶えず何かを入れておかないと小さくなってしまうので、ダイレーターという直径3センチ程度長さ20センチ程度の棒をつっこんでおかねばならない。少なくとも就寝時は必須らしい。実物を見せてもらいましたけどかなりコワいです。
     しかも、この病院や他の病院での術例写真を見せてもらったけど、きれいじゃないんです。男が見たら絶対にドン引きします。
     こういうものを、体にかなりの負担をかけて作る必要があるだろうか。名を捨てて実を取るというか、こんな膣もどきを作る努力をするくらいなら、女としてのパス度を高めるなど別の努力をしたほうがいいのではないか、というのがこの病院の主張であり、私もそれを認めたので、膣は作ってないわけです。

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