[真理子日曜学校 - 聖書の言語入門(フレーム表示) ]
【古典ギリシア語コース】
文字の読み方・2
- 母音記号
ギリシア語の母音字α、ε、η、ι、ο、υ、ωにはさまざまな記号がつくことがあります。現代では発音的にはまるきり無視してかまわないのですが、表記的にはしっかり書かねばならず、勝手に省略したりしてはいけません。大文字の場合は左肩に、小文字の場合は上に書かれます。
- 気息記号
語頭の母音およびρにつくシングルクォーツのような記号で、その字がhを伴って発音されるかどうかを表記するものです。Ἀ、ἀは無気、Ἁ、ἁは有気を表し、無気の場合はそのまま、有気の場合、昔は母音はハ・ヘ・ヒ・ホのように、ρはラハのように発音されましたが、現代ではこのhの音がなくなってしまったのでまるきり無視しちゃってください。実をいうと語中語末の母音だってhがついているものがあったらしいのですが、それは全然表記しないで、語頭の母音のh有無だけ書くっていうのはヘンな話ですね。実際、語中の母音のhが語形変化に影響を及ぼすことがままあります。少なくとも新約聖書の時代には全然発音されなくなっていたはずですが、「歴史的仮名遣い」的に語頭のh有無だけ表記し分ける習慣です。
ちなみにギリシア語由来の英単語のhy~(hydroなんたら)とかrh~(rhapsody)とかいうのはこれの名残です。えっ、だとしたら語頭のhはちゃんと発音されてたんじゃないの? だからこそ昔のイギリス人はそれを聞き取って、hって書いたんじゃないの? いえいえ、英単語の中のギリシア語由来語って、ルネサンス期にエラスムス式の机上の空論的な「古典式発音」ができてから、学者たちによって人工的に取り入れられた語ばっかりなんで、わざわざ発音しないhを書いてるんです。
- アクセント記号
3種類あります。- 鋭アクセント……βίβλοςのίのように「/」記号で書かれるもの。
- 曲アクセント……Χριστοῦのῦのように「~」記号で書かれるものです。活字の書体によっては「-」「^」などもあります。印刷聖書では、ネストレ・アーラントは~、七十人訳は^ですね。同じドイツ聖書協会なのにどうして違うのかしら。
- 重アクセント……τὸνのὸのように「\」記号で書かれるものです。
昔はともかく現代の発音では、重アクセントは無視、鋭アクセントと曲アクセントはどちらも強く発音してください。日本人が発音するとどうしても「強く」ではなく「高く」になってしまうのですが、実は古典では高く発音されていたので、まあいいかもしれません。
詳しくは「アクセント」を見てください。
- 下書きイオタ
αηωの下にはᾳῃῳのようにι(イオタ)が小さく書かれることがあります。大昔にαι、ηι、ωιだったものが古典時代にすでにαηωの長音に発音変化してしまったものを、「昔はαι、ηι、ωιだったのだよ」といういわば歴史的仮名遣いとしてこう書いたものです。発音上は完全に無視してください。長母音にする必要すらありません。だからᾳ、ῃ、ῳです。大文字の場合はΑΙ、ΗΙ、ΩΙのように書きますがやはりιを無視してください。一応Unicodeにはᾼだのῌだのῼだのという字が用意されてるんですが、実際にはそんな書き方はしないようですし、フォントによってはᾼῌῼのときに真下にιが来なかったりします。
- 分離記号
ιとυの上につく2点です。αϊのように書かれているときは、αιではなく、「アイ」のように発音します。同様に、εϊ、οϊ、υϊ、αϋ、εϋ、οϋ、ηϋです。