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ついで王の力と書いた二番目の者が語った。
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「皆さん、天地とそのなかにある万物をおさめる人間は力あるものではないでしょうか。
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しかし、万物を支配し、これを管理する者、何を言っても万物が従うという王こそはもっとも力ある者です。
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王が人々に互いに戦えと言えば人々は戦います。また、王が敵に向けて軍隊を出すと、軍隊は出動して山でも城壁でも見張りやぐらでも征服します。
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殺すにせよ、殺されるにせよ、王の命令にそむくことはありません。勝てば、略奪したものなど何でも王のところにもち帰ります。
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徴兵されず戦闘に参加しないで土地を耕やす農民は、種をまいて収穫し、それを王に献上します。王に貢物を納めるようにお互い競うのです。
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王が殺せと言えば臣下は殺し、助けてやれと言えば助けてやり、
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撃てと言えば撃ち、廃墟にしてしまえと言えば廃墟にし、建設せよと言えば建設し、
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切り倒せと言えば切り倒し、植えよと言えば植える、このような絶対的な権威を持つ者は王だけです。
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民も軍隊もすべて王に聞き従います。さらに、王は横になってお飲みになり、お召し上がりになり、お眠りになったりしますが、
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臣下はその身辺を警護し、だれひとりとしてその場を離れて自分かってな仕事をすることはできませんし、王に異議をとなえる者もありません。
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皆さん、これほどの服従を要求できるからには、王こそもっとも力ある者と言わざるをえないのではないでしょうか」。こう言って彼は話を終えた。
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ついで、女と真理だと書いた三番目の者、すなわちゼルバベルが語りはじめた。
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「皆さん、たしかに人間は力強いし、それを支配する王は偉大であり、また酒は力が強いでしょう。ところがこれらのすべて管理し支配している者はと言えば、それは女ではないでしょうか。
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海と大地を支配する王も、すべての民も女が産んだのです。
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女が彼らを生んだのですし、女がぶどうを作るぶどう園を切りひらく農民を育てたのです。
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女が人の衣服をつくり、女が人に栄誉を得させました。人は女がなくては存在できないのです。
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たとえ金や銀やその他さまざまなみごとなものを集めたとしても、容姿端麗な美女が目の前に現われたなら、
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男はそんなものはかたっぱしから投げうって彼女に見とれ、口をぽかんと開けて眺めてばかりいるのです。だれもが金や銀やその他ありとあらゆるみごとなものよりも彼女のほうを選ぶのです。
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男は自分を育てた親も故郷も捨てて、女といっしょになるのです。
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その女にうつつをぬかしてしまうと、もう父母や故郷のことは頭にありません。
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このことで、女こそがあなたがたを支配しているのだと了解していただかなくてはなりません。あなたがたはどんな苦労をしてでも何でも女に貢いでいらっしゃるではありませんか。
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男は刀をさげて、海を越え川を渡ってまでも泥棒や追いはぎに出かけます。
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ししの姿を見かけることもあり、暗闇を行くこともあります。盗んだりまきあげたり奪い取ったものは愛人のところにもち帰ります。
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人は父母よりも自分の女のほうを愛します。
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女のせいで狂い、女のせいで奴隷におちぶれた者も少なくありません。
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また女のせいで人生を棒にふり、つまずき、身をもちくずしてしまった者も少なくありません。
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皆さんはわたしをお信じになりませんか。たしかに王はその権威のおかげで偉大です。どこへ行ってもみんなが王に手を触れることをおそれるではありませんか。
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しかしわたしは、王とその側室、バルタコス閣下の娘アパメとを観察していましたが、彼女は王の右に座り、
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王冠を王の頭からはずして自分でかぶりました。そして、彼女は左手で王をたたきまくったのです。
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それでもまだたりないかのように、王は口をぽかんと開けて彼女を眺めていました。彼女が笑いかければ笑い、不機嫌になれば機嫌を直してもらおうとへつらうのです。
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皆さん、こういうことができるからには、女こそもっとも力ある者と言わざるをえないではありませんか」。
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すると、王と高官たちは互いに顔を見合わせた。次に彼は真理について語りはじめた。
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「皆さん、確かに女は強いものです。しかし大地は広大で天は高く、太陽はとても速く運行します。大空を一周し、一日でまたもとの所にかけもどるのですから。
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こういったものを作るおかたは偉大ではありませんか。真理こそは偉大であり、他のすべてにまさって力があります。
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全地が真理に呼びかけ、天は真理をさんびし、神に作られたものはすべてふるえおののきます。真理にはいつわりがまったくありません。
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酒はいつわりであり、王はいつわりであり、女はいつわりであり、すべて人の子はいつわりであり、また彼らの行為など、これらのものはすべていつわりです。こういったもののうちに真理はありません。彼らはみずからのいつわりのうちに滅びるでしょう。
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しかし、真理は残り、その力は永久につづき、永遠に生きながらえて支配しつづけます。
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真理にはひいきとか差別とかいうことはなく、すべてのいつわり者と悪人に対して正義を行ないます。そして万人が真理のおこないを承認します。
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真理のさばきにはいつわりがまったくありません。力と支配と権威と偉大さは永久に真理のものです。真理の神はほむべきおかたです」。
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こう言って彼は口を閉じた。すると一同が声を発し、「真理は偉大にしてもっとも力強い」と言った。
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すると王は彼に言った。「お前が書きつけに書かなかった本当に望むものを申してみよ。お前がもっとも賢いことが証明されたのであるから、望みのものをとってつかわそう。また、お前は余のとなりに座し、余の同族と呼ばれるであろう」。
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そこで彼は王に言った。「王位を引き継がれた日になさった、エルサレムを再建するという誓いを思いだしてください。
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クロス王は、バビロンを倒すと誓ったときにいっしょに誓ったのです。エルサレムから選んで持って行った祭具類はあとで送りかえすということを。その祭具類をすべて返してください。
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ユダヤがカルデア人によって荒廃させられてしまったとき、陛下もやはり、イドマヤ人が焼き払った聖所を再建すると誓われました。
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大王陛下、これこそがわたしが陛下に願い求めることであり、これについて寛大なおはからいをいただきたく存じます。ですから、ご自分の口をもって天の王に果たすと誓われた誓いを果たしてくださるようお願いいたします」。
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するとタリヨス王は起ち、彼に接吻し、エルサレム再建のために帰還する彼とその一行を無事送りとどけるようにという親書をすべての財務官、総督、将軍、太守らにあてて書き送ってやった。
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また、コイレ・スリヤとピニケとレバノン駐在の全総督にレバノンからエルサレムに杉を輸送し、協力して都の再建にあたるようにとの親書を書き送った。
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さらに、王国内からユダヤへ帰還するすべてのユダヤ人に対して、どのような役人、太守、総督、財務官も彼らの家の戸口に押しかけて税を徴収してはならないと、ユダヤ人たちの自由を文書で保証した。
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また今後彼らが入手する土地はいっさい無税になり、現在イドマヤ人が所有しているユダヤ人の村落はこれを手離すようにさせること、
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神殿建設のために、工事完了まで毎年二十タラントを寄付すること、
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そのほかに毎年十タラントを、燔祭を毎日祭壇に供えるために十七タラントを供えねばならないという規定を実行するために寄付すること、
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また、都を建設するためにバビロニヤから出かけていく者たちは、当人も家族も自由を享受できるようにすること、
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また、同行する祭司たちすべてには手当てと祭服の支給をすることを、文書によって指示した。
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またレビ人たちには、神殿が落成し、エルサレムが再建されるときまで手当てを支給するよう文書によって指示した。
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都の警備にあたる人々のためには、土地と賃金を支給するよう、文書によって指示した。
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彼はクロスが選び取った祭具類をすべてバビロンから送り出した。クロスがおこなうと言ったことは彼もこれをおこない、エルサレムへ送り出すよう指示した。
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若者は退出すると、顔をエルサレムの方角に向け、空を仰いで天の王をほめたたえて言った。
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「勝利はあなたからのもの、知恵はあなたからのもの、栄光はあなたのもの、わたしはあなたのしもべです。
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わたしに知恵をお授けくださったあなたはほむべきおかた。ご先祖たちの主よ、わたしはあなたをさんびします」。
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彼は親書をおしいただいて退出し、バビロンへ行って同胞たちみんなに報告した。
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彼らは父祖の神をほめたたえた。なぜなら彼らは解放されたうえに、
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エルサレムに帰還して神の名を冠する神殿を再建することを許されたからである。彼らは七日間にわたって音楽と余興をもって盛大に祝った。
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